「うちの若手は、やる気がない」
現場でよく聞く言葉です。
何度教えても反応が薄い。言われたことしかやらない。そのたびに、本人の性格ややる気の問題として片づけたくなる。
でも、「やる気がない」で片づけた瞬間に、打つ手はなくなります。性格は変えられないからです。
私は製造業の現場で教育を設計しています。その立場から言うと、やる気は「あるかないか」ではなく、「設計されているかどうか」です。
やる気を設計するために、リーダーが先にやることは2つあります。
「やる気がない」と言った瞬間、教育は止まる
技術を教える。手順を教える。ルールを教える。どれも大事です。
でも、それだけ教えて「あとは本人のやる気次第」にしていないでしょうか。
やる気を本人任せにすると、うまくいかなかったときの結論は毎回同じになります。
「あいつはやる気がない」。そこで思考が止まり、教育も止まる。本人の性格の問題なら、リーダーにできることは何もないからです。
やる気を設計の問題として見ると、やることが2つ出てきます。仕事の意味を教えることと、先に評価することです。

設計その1:仕事の意味の連鎖を教える
私の現場は製缶です。ひとつの製品ができるまでに、溶接、組み立て、テスト、運搬、品質検査と、たくさんの役割があります。
たとえば品質検査。
正直、地味です。自分で何かを作るわけではなく、同じ確認を繰り返す。「だるい」と感じる人がいても不思議ではありません。
でも、意味の側から見ると景色が変わります。
- 検査があるから、不良が外に出ない。
- 不良が出ないから、お客様に良い商品が届く。
- 良い商品が届くから、会社が信頼される。
- 信頼されるから、仕事が続いて、感謝が返ってくる。

この連鎖を、教えられているかどうか。
「ただやらされている」状態の人と、「自分は重要なポジションにいる」と分かっている人では、同じ作業でも向き合い方が変わります。
やる気がないように見える人は、実は、自分の作業の意味を教わっていないだけかもしれません。
手順とルールは教わった。でも、この仕事が誰につながっているのかは、誰も教えてくれなかった。それで「前向きにやれ」と言われても、無理な話です。
設計その2:リーダーが先に部下を評価する
もうひとつ。こちらの方が、耳が痛いかもしれません。
一番ダメな状態は何か。部下が前向きにやっているのに、リーダーがそれを評価せず、成果だけ持っていく状態です。
部下の側から見れば、これは搾取です。
「頑張ったのに、大して評価されない」。
これは本人にとって、自分への否定と同じです。そして、自分を否定する人のために頑張る人はいません。
逆に、自分を理解して認めてくれる人のためなら、人は頑張ります。
ここで、循環を考えてみてください。
- リーダーが部下の頑張りを言葉にして評価する。
- 部下は嬉しいから、もっとやる。
- もっとやるから、成果が出る。
チームの成果が出ると、最後に誰が評価されるか。リーダーです。
つまり、リーダーが評価されたければ、先に部下を評価する。この順番が大事です。

部下を評価せずに自分の評価だけ欲しがると、部下は搾取されていると感じて離れていく。
先に部下を評価すると、回り回って自分が評価される。
逆に見えて、こちらが近道です。
順番を逆にすると全てが狂う
この「順番」は、組織づくりの世界でも知られた考え方です。
MITのダニエル・キムが示した組織の成功循環モデルでは、関係の質 → 思考の質 → 行動の質 → 結果の質の順で回るとされています。
- 関係が良くなると、考えが深くなる。
- 考えが深くなると、行動が変わる。
- 行動が変わると、結果が出る。
- そして結果が、また関係に返ってくる。

問題は、逆から入ったときです。
結果だけを先に求めると、どうなるか。
- 急かす、詰める、できていないところを責める。
- すると関係の質が悪化します。
- 関係の質が悪くなれば、言われたことしか考えなくなる。
- 考えなくなれば、行動も雑になる。
- そして結果は、もっと出なくなります。
結果を急ぐほど、結果が遠のく。現場でよく起きていることだと思います。
だから、先に手を入れるのは結果ではありません。関係の質です。
部下の頑張りを言葉にして返すというのは、その一番安い方法です。
評価しないリーダーを放置していないか
これは、リーダー個人だけの話でもありません。
部下のダメなところを見つけては否定していく。頑張りは評価しない。
そういうリーダーの下で何が起きるかというと、優秀な人からやらなくなります。頑張るだけ損だと分かるからです。そして辞めていきます。
そういうリーダーを放置している会社も、同じ結果に加担しているのと同じです。
リーダーが部下を評価しているかどうかは、リーダーを評価する側が見るべきところです。
部下の何を評価するかについては、「なんとなく評価」が現場を壊す|部下は結果ではなく判断理由と再現性で見るに書きました。
今回の話は、その前段です。評価の中身を磨く前に、まず評価しているかどうか。
やる気を「なんとなく」に任せない
まとめます。
やる気は、気合いや説教で出るものではなく、設計するものです。
明日からできることは2つです。
- 部下の作業をひとつ選んで、その仕事が誰につながっているか、連鎖を言葉にして伝える
- 今日の部下の頑張りをひとつ見つけて、言葉にして返す
どちらも、お金も制度もいりません。リーダーの設計だけでできます。
「やる気がない」と言いたくなったときは、たぶん、この設計がまだです。
やる気に頼らずに教育を組み立てる話は、OJTは「やる気」で回らない ─ 行動科学で組み直す教育設計4段階に書きました。あちらは「やる気をあてにしない仕組み」、今回は「やる気そのものを設計する」話です。
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