仕事はできるのに、新人を前にすると説明の順番が崩れる。
注意点から話し始め、途中で目的を思い出し、また手順へ戻る。新人は「はい、分かりました」と答えているものの、本当に伝わったのか自信がない。
これだけで「自分は教えるのに向いていない」と決めるのは早いです。話すのが下手というより、準備しないまま頭の中にあるものを全部出そうとしているのかもしれません。
私自身、構成のない状態で話すのは得意ではありません。だから、説明する前に話す型を作り、その順番で一度練習する。そこまでをOJTの準備に含めたほうがいいと考えています。
用意するのは長い台本ではありません。「全体・目的・相手に通じる例・確認する出口」の4枠です。
教える側には一本の仕事でも、新人には断片に見える
現場経験が長くなるほど、頭の中に入っている情報は増えます。作業の流れだけでなく、注意点、不良の兆候、過去の失敗、例外への対処まで見えているでしょう。
それを思いついた順に話すと、初めて聞く人にはつながりが見えません。教える側には一本の仕事でも、新人には断片が次々に飛んでくる状態です。
目指したいのは、何も見ずに淀みなく話せる人ではありません。新人が全体を見失わない順番を、話す前に作れる人です。
厚生労働省が掲載している職長向けの教育教材でも、分かりやすく話す方法として、全体から部分へ進み、もう一度全体へ戻るホールパート法や、結論・理由・例・結論の順で話すPREP(プレップ)法が紹介されています。
型の名前を覚えることが目的ではありません。伝える順番は、先に作っておけるということです。
話す前に、4つだけ書く
明日教える作業を一つ選び、紙かメモへ次の4つを書きます。
| 枠 | 書くこと | 自分への問い |
|---|---|---|
| 全体 | 今日どの仕事を、どこまでできればよいか | 説明後、新人は何ができればよいか |
| 目的 | なぜこの作業や確認が必要か | 品質、安全、次工程の何に関わるか |
| 相手に通じる例 | 新人が知っている経験との共通点 | スポーツ、趣味、前職、日常の何に置き換えられるか |
| 確認する出口 | 何を見れば、伝わったと判断できるか | やってもらうか、説明し返してもらうか |
これは万能な公式ではありません。話す順番がまとまらないときに、最初の一枚を作るための枠です。
最初に「全体」を見せる
細かな手順から入ると、新人は「いま何のために、この動きを覚えているのか」を見失います。
先に伝えるのは、今日扱う仕事と、どこまでできれば一区切りなのかです。
たとえば外観検査を教えるなら、「今日は、この部品を出荷してよいか判断するために、傷と汚れを見分けるところまでやります」と置く。これで、後から話す基準や注意点の置き場所ができます。
手順の前に「目的」を置く
「ここを必ず確認して」と言うだけでは、教えた人がいなくなったときに省かれることがあります。
なぜ必要なのかまで伝われば、新人は別の場面でも判断しやすくなります。「次の工程で位置がずれるから」「見た目は同じでも、ここに傷があると使えないから」のように、作業の先で何が起きるかを短く添えます。
手順の前に全体像と目的を伝える考え方は、「『分かりました』と言った新人が現場で止まる理由」でも詳しく扱っています。
こちらの得意なたとえより、「相手に通じる例」を探す
基本を繰り返す意味を話すとき、空手の型が通じる人もいれば、球技のフォームやゲームの基本操作のほうが分かる人もいます。
大事なのは、こちらが用意したたとえを押しつけることではありません。相手がすでに持っている経験を借りることです。
「これまで何か、基本動作を繰り返して覚えた経験はある?」と先に聞けば、使える例を探しやすくなります。気の利いたたとえを考えるより、相手の経験を一つ知るほうが早いです。
最後は「分かった?」ではなく、動きで確かめる
説明の最後を「分かった?」で終えると、理解できていなくても新人は「はい」と答えられます。聞き方を工夫するより、確認する行動を先に決めておきます。
- 一度やってもらう
- 次に何をするか、本人の言葉で説明してもらう
- 良い状態と悪い状態を見分けてもらう
- 迷ったとき、どこで止めて誰に聞くかを言ってもらう
見るのは、説明中のうなずきではなく、その後の動きです。止まったところがあれば、次回の説明を直す材料になります。
本番前に一度だけ、声に出す
4枠を書いたら、一度だけ声に出します。原稿を丸暗記する必要はありません。
話している途中で目的が抜ける。例を入れたら急に長くなる。最後に何をしてもらうか決まっていない。声に出すと、メモを眺めているだけでは分からなかった穴が見えます。
詰まった場所は、話す能力がない証拠ではありません。まだ順番ができていない場所です。メモへ一言足すか、余分な説明を削り、もう一度通せばいい。
営業の電話や発表では、話す内容を準備して練習します。OJTだけ、ぶっつけ本番でうまく話せるはずだと考えなくていいのです。
教えた後は、一行だけ残す
使ったメモに、一行だけ振り返りを残します。
- どこで新人が止まったか
- どの例は通じたか
- 何を説明しすぎたか
- 次回、先に見せるものは何か
次に同じ作業を教えるとき、その一行を4枠へ戻します。これを繰り返せば、説明が少しずつ自分の現場に合ってきます。
話し方を性格の問題にすると、「向いていない」で終わります。メモにして残せば、準備して直せる仕事になります。
明日の説明は4行から始める
人前で話すのが苦手でも、OJT担当に向いていないとは限りません。
何も準備せずに話すのが苦手なら、準備すればいい。私自身も、構成のない状態で話すのが苦手だから、型を作って練習するしかないと考えています。
明日教える作業を一つだけ選び、紙に「全体・目的・相手に通じる例・確認する出口」と書く。空欄があれば、そこが本番前に考える場所です。
上手に話せたかではなく、新人が次の一歩を自分で動けたかを見る。話す型は、そのための準備です。