OJT担当者を決めるとき、現場ではよく「仕事ができる人」に任せます。
作業が早い。品質も安定している。トラブル時の判断もできる。そういう人に新人を見てもらえば大丈夫だと思うからです。
でも、OJT担当に任命しただけでは、教育者にはなりません。
教える側を教育しないまま任せるなら、そのOJTは、担当者が過去に受けてきた教え方や、自分で身につけた自己流を再生産する場になります。
大きな研修制度を作る前に、まず任命前の30分で、教える側の基準をそろえる。
ここで扱うOJT担当者研修は、「教え方講座」ではありません。現場で自己流を増やさないための、基準合わせです。
この記事では、OJT担当者に任せる前の30分で何をそろえるかを整理します。
合格ライン、教える順番、管理者へ戻す条件まで決めておけば、担当者の自己流だけでOJTが始まる状態を避けられます。
OJT担当者研修は、教え方講座ではなく基準合わせから始める
OJT担当者研修というと、コミュニケーション、褒め方、フィードバックの仕方を学ぶ場を想像するかもしれません。
もちろん、それらも必要です。
ただ、現場で最初にそろえるべきなのは、話し方の技術ではありません。
- 何を見て「できた」と判断するのか
- どの順番で教えるのか
- どこまで担当者に任せ、どこから管理者へ戻すのか
この基準が曖昧なままでは、どれだけ感じよく教えても、教える内容は担当者ごとに変わります。
JMAMのOJT担当者向け解説でも、OJT担当を業務遂行能力の高さだけで選ぶのではなく、指導の仕組みを組織内で標準化する必要があると説明されています。
ここでいう標準化は、全員に同じ言い方をさせることではありません。
誰が見ても同じ合格ラインを持つことです。
つまり、OJT担当者研修の入口は、きれいな研修論ではなく「会社として何を正解にするか」を教える側と合わせることです。
ここを飛ばすと、OJTは会社の教育ではなく、担当者個人のやり方になります。

任命前に30分でそろえる3つのこと
本格的な研修を作る時間がなくても、任命前に30分だけ取れるなら、まず次の3つをそろえます。
1. 到達状態
「一通りできるようにしておいて」では、担当者によって合格ラインが変わります。
必要なのは、誰が見ても同じように判断できる到達状態です。
たとえば、次のように言い換えます。
- この作業を補助なしで最後までできる
- チェック項目を見ながら、自分で良否を確認できる
- 分からない時に、どこを見て誰へ聞くか分かっている
完璧にできることを最初の合格にしなくてもかまいません。
ただし、どこまでできれば次へ進めるのかは、会社側が先に決めておく必要があります。
2. 教える順番
仕事ができる人ほど、自分が普段見ている順番を省略します。
でも、新しく入った人は、何を先に見ればよいかがまだ分かりません。
なので、OJT担当者研修では、教える順番を先に合わせます。
- まず安全に関わること
- 次に品質に関わること
- その後にスピードや効率に関わること
この順番がないと、担当者の得意なところから教え始めたり、新人がまだ見えていない判断を急に求めたりします。
ALL DIFFERENTのOJT解説でも、OJTトレーナーが場当たり的に教えたり、自己流のやり方を教えてしまったりすることが失敗原因として挙げられています。
順番が先に決まっていなければ、何を渡しても担当者の判断に委ねる構造は変わりません。
3. 戻し先
OJT担当者を一人にすると、担当者は自分の中だけで判断しようとします。
- 新人が同じミスを繰り返す
- 説明しても伝わらない
- そもそも、どこまで自分が教えればよいのか分からない
この状態を放置すると、担当者は疲れます。
だからこそ、任命前に「ここから先は管理者へ戻す」という条件を決めます。
OJT担当者に会社が渡す材料の詳細は、既存記事のOJT担当者に任せる前に会社が渡す5つのもので整理しています。
今回のミニ研修では、その材料を担当者と一緒に確認し、口頭で合意するところまで進めます。
技術力だけで選ばず、研修で確認したい資質を見る
OJT担当者は、技術が一番高い人から自動的に選ぶものではありません。
技術が高いことと、相手に必要な順番で教えられることは別だからです。
たとえば、段取りの早いベテランが新人に作業を見せる場面を考えます。
本人は、安全確認、良否判断、工具の当て方、次の準備をほとんど同時に見ています。
でも、新人にはその順番が見えていません。
そこで「この状態ならOK」と言わないまま「見て覚えて」で進めると、新人は判断基準ではなく、見えた動きだけを真似します。
技術が高い人に任せたのに自己流が残るのは、教える順番と合格ラインが言葉になっていないからです。
ただし、ここで担当者を選び直す必要はありません。
任命前のミニ研修では、選ばれた担当者が会社の基準で教えられる状態に近づいているかを確認します。
特に見るのは、次の3点です。
- 自分のやり方と会社の標準を分けて話せるか
- 新人のつまずきを、合格ラインから見直せるか
- 自分だけで抱えず、決めた戻し先へつなげられるか
この考え方は、既存記事の技術が高いベテランほど若手を迷わせる|OJT担当者を「うまさ」で選ばない理由にもつながります。
OJT担当者研修は、選ばれた人を責める場ではありません。
会社の基準で教えられる状態に整える場です。
社内ミニ研修は、この流れで始める
30分のミニ研修は、立派な資料を作らなくても始められます。
目的は、担当者を完璧な教育者にすることではありません。担当者の自己流だけでOJTが始まる状態を避けることです。
インソースのOJT監督者に関する記事でも、OJT担当者が独自の方法で育成すると、新人のスキルや知識にばらつきが出ると説明されています。
だからこそ、方針を示し、統一された基準で教育を受けられる状態にする必要があります。
担当者が一人で基準を作ろうとすること自体が、そもそも無理な設計です。
最初の一言は、次のように置くと伝わりやすくなります。
| 時間 | 項目 | 確認すること |
|---|---|---|
| 5分 | 任命の目的 | なぜその人に任せるのか。技術力だけでなく、会社の基準を渡す役割だと伝える |
| 7分 | 合格ライン | 何ができれば初回合格か。スピード、品質、安全、報告のどれを優先するか |
| 7分 | ズレやすい例 | 新人がやりがちなズレ、過去に起きたミス、見落としやすい判断を先に共有する |
| 5分 | 止める条件 | 安全・品質に関わる時、同じミスが続く時、理解したふりが見える時の止め方を決める |
| 4分 | 管理者へ戻す条件 | 何回続いたら上司へ戻すか、どの内容を報告するかを決める |
| 2分 | 次回確認 | いつ、誰が、OJTの進み具合を見るかを決める |
ここで大事なのは、担当者に「うまく教えてください」と言わないことです。
代わりに、次のように聞きます。
この3つを言葉にできれば、OJTは少なくとも個人の感覚だけでは始まりません。
OJT担当者に渡すチェックリスト
ミニ研修の最後には、担当者が現場で見返せるチェックリストを渡します。
難しいものでなくてかまいません。
1枚で見られるものにします。
- 今日教える作業の到達状態は書いてあるか
- 最初に見せる良い例と悪い例はあるか
- 新人に先に言っておくNG行動はあるか
- 手順書、写真、動画、チェック表など、戻れる材料はあるか
- 担当者が一人で判断しない条件は決まっているか
- その日の終わりに、何を管理者へ報告するか決まっているか
OJT担当者を一人にしない仕組みは、既存記事のOJT担当がしんどいのは自分だけ?一人で抱えないために決めることでも扱っています。
ミニ研修では、担当者を励ますだけでなく、抱え込まない条件まで決めておきます。
NG/OK声かけ例
OJT担当者には、声かけの例も渡しておくと使いやすくなります。
| 場面 | NG | OK |
|---|---|---|
| 最初に見せる時 | とりあえず見て覚えて | まずはこの順番だけ見てください。判断はあとで一緒に確認します |
| 失敗した時 | 何回言ったら分かるの | 今は手順3までは合っています。手順4の確認位置だけ戻しましょう |
| 遅い時 | もっと早くやって | 今はスピードより、合格ラインを外さないことを優先しましょう |
| 分かったふりがある時 | 分かったならやって | どこを見てOKと判断するか、言葉で一度説明してみてください |
ここで渡したいのは、優しい言い方のテンプレではありません。
担当者が、人格ではなく手順・基準・確認位置へ戻せる言葉です。
会社が決めずに任せるなら、それは教育ではなく丸投げになる
OJT担当者研修を難しく考えすぎる必要はありません。
ただし、何も決めずに任せてはいけません。
- 教える内容
- 合格ライン
- 止める条件
- 管理者へ戻す条件
この4つを会社が決めないまま現場へ渡すと、担当者は自分の経験で埋めるしかなくなります。
その結果、新人には会社の基準ではなく、担当者の自己流が渡ります。
これは、OJT担当者が悪いのではありません。会社が、教える側を教育していないだけです。
次にOJT担当者へ任せる前に、対象作業を1つ選び、合格ラインを一文で書いてみてください。
担当者が同じ言葉で説明できるなら、研修の入口はできています。
説明が割れるなら、まだ任命ではなく基準合わせの段階です。
ここを30分でそろえる。
そこから、OJTは個人任せではなく、会社の教育として始まります。


