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「教え方が下手なのか」と悩むOJT担当が最初にやるべき3つの仕込み

教え方で悩む前に準備すること - OJT担当が最初にやる3つ

「何度も同じことを教えているのに、新人が一向にできるようにならない」

OJTを任された現場の班長から、一番よく聞く悩みです。

一生懸命伝えているのに結果が出ないと、「自分の教え方が下手なのか」と自信をなくしてしまうかもしれません。でも、それは教える側の熱意が足りないからでも、新人に才能がないからでもありません。

20年以上、製造現場を見てきて分かったことがあります。

実は、熱心で責任感の強い人ほど、「自分の経験を全部、手取り足取り渡そう」として空回りしてしまうのです。

新人を育てるために本当に必要なのは、経験をそのままコピーさせることではなく、新人が「自分で動けるようになる材料」を最初に渡しておくことです。

教え方を教わっていなくても、明日からすぐ現場で使える3つの準備をお伝えします。

なぜ OJT担当を任されると、最初に詰まるのか

OJT担当に任命された側の気持ちは、こんな感じになります。

「何から始めたらいいか分からない」
「手順書はあるけど、それをそのまま渡しただけでは、新人はできるようにならない」
「自分が苦労して覚えたことを、どう伝えればいいか分からない」

これは個人の問題ではありません。

OJT を任される段階で、「教え方そのもの」を教わっていないことが原因です。

中小製造業の OJT が機能しない大きな構造として、教育担当者に「時間・型・評価・支援」の4つが渡されていないと指摘されています。

特に「型」が渡されていないと、OJT担当は自分の経験を頼りに教えるしかなくなります。

型のない状態で経験だけで教えると、現場では次のような問題が起こります。

  • 自分が覚えた順番で教えるが、それが新人にとって分かりやすい順番とは限らない
  • 手取り足取り教えても、新人が「なぜそうするのか」を分かっていない
  • 同じ説明を3回繰り返しても、現場で動きが変わらない
  • 「教えたのに、できない」と感じて、教える側が消耗する

このとき、教える側が「自分の経験を渡す」ことに集中しすぎていることが多いです。

技術が高い人が OJT担当を任されることが多いですが、技術力と教育力は別の能力です。

自分の作業を見せることと、相手が自分で動けるようになることは、別の話になります。

最初の3つは「自分の経験を渡す」ではなく「新人が自分で学べる材料を仕込む」

「学ぶスキル」という言葉があります。

同じトレーニングを受けても、上達が早い人と、なかなかうまくならない人がいます。

その差は何か?

体のスキルや運動神経ではなく、どういう情報を持っているか、どういう情報を取りに行くかで差がついています。

これが「学ぶスキル」です。

学ぶスキルが高い人は、こういう動きをします。

  • 上手い人の動きを観察する
  • 「なぜそうするのか」を聞く
  • 良い例と悪い例の両方を見て、自分がどの位置にいるかを把握する
  • 基準(アベレージ)を最初に確認して、目指すレベルを決める

逆に、学ぶスキルが低い人は、自分の今の情報だけを頼りに練習します。

すると、なんとなくの練習で時間がかかります。

ここで OJT担当に必要な視点が変わります。

「教える」とは、自分の経験を渡すことではなく、新人が「学ぶスキル」を発揮できる材料を最初に仕込むことになります。

これは「覚えろ」と言って学習者に丸投げするやり方の逆です。

具体的には、次の3つです。

  1. 基準(アベレージ)を最初に共有する
  2. 良い例と悪い例を両方見せる
  3. 「なぜ?」を聞ける場を作る

ひとつずつ見ていきます。

1. 基準(アベレージ)を最初に共有する

新人が現場に入って最初に持つ疑問は、「自分は早いのか、遅いのか」「この仕事はどれくらいで終わらせればいいのか」です。

ところが、ここの情報が渡されないことが多いです。

「とりあえずやってみて」「慣れたらできるようになる」

と言われると、新人は何を目指せばいいか分かりません。

自分の今のスピードが早いのか遅いのかも分からないまま、なんとなく作業を続けます。

OJT担当が最初に渡すべき情報は、こういうものです。

  • この作業は、普通の人はどれくらいの時間でできるか
  • 手直しの割合はどれくらいが平均か
  • 何ができるようになれば一人前と判断されるか
  • どれくらいの期間で、どこまで到達してほしいか

これを最初に伝えるだけで、新人は目指す位置が分かります。

目指す位置が分かれば、自分の現状とのギャップが見えて、何を練習すればいいかが分かるようになります。

これは、教える側にとっても楽になります。

「いつできるようになるか」が新人の問題ではなく、「基準を渡す」という教える側の仕事になるからです。

基準を渡したら、次は基準と新人の現状のギャップを一緒に見ます。

「今は手直し3割、平均が1割だから、ここを縮めるためにどこを直すか」という会話になります。

ギャップが見えれば、新人は自分で動けるようになります。

2. 良い例と悪い例を両方見せる

教える側が「正しいやり方」だけを見せても、新人は判断ができません。

なぜなら、新人が現場で出会うのは、いつも「正しいやり方」とは限らないからです。

少しズレた状態、半分くらいできている状態、ベテランがあえて崩している状態、いろいろあります。

これを「これは正しいのか」「これは違うのか」と判断するためには、両方の例を見ている必要があります。

OJT担当が見せるべきは、こういうセットです。

  • ベテランがやっている良い例(基準を満たした状態)
  • 新人がよくやる悪い例(どこで崩れるかが分かるもの)
  • ベテランが「経験で崩している」例(あえて基準と違う動きをしている場合、その理由も一緒に)

このとき、悪い例は「失敗作」ではなく「判断材料」として見せることが大事です。

「これは失敗だから真似するな」ではなく、

「これは○○の条件が抜けている状態で、こうなる。だから○○を確認する」と、行動として説明できる形で見せます。

新人は、良い例だけを見ても、なぜそれが良いのかが分かりません。

悪い例と比べて初めて、「これがあるから良いのか」と気づきます。

ベテランが「目で見て違和感があれば止める」と言う場合、その「違和感」は本人の中では分かっていても、新人には見えていません。

「違和感」を、観察できる行動に分解して渡します。

  • ライト直下で部品を持ち、左右に45度ずつ傾けて2秒ずつ見る
  • 見終わった後、指で表面を一度なぞる
  • 引っかかりを感じたら、その位置を治具で再固定する

ここまで分解して見せて、「この動きを抜くと、ここでミスが入る」と悪い例も合わせて見せます。

すると、新人は自分で判断できる材料を持てます。

判断できる材料が手元にあるかどうかで、新人の動きはまったく変わってきます。

3. 「なぜ?」を聞ける場を作る

新人が一番聞きにくい質問は、「なぜそうするのか」です。

「やり方を聞く」のは比較的聞きやすいですが、「なぜ?」を聞くと「そんなことも分からないのか」と思われる気がして、聞けなくなります。

OJT担当が3つ目に仕込むのは、「なぜ?」を聞いても大丈夫な空気です。

具体的にはこういう動きになります。

  • 見本をやる前に「これからやることを、なぜそうするか込みで説明します」と先に言う
  • 見本の後に「ここまでで分からないところはありますか?」ではなく、「ここまでで『なぜ?』が浮かんだところはありますか?」と聞く
  • 新人が「なぜ?」を聞いてきたら、まず「いい質問」と言う(質問してきたこと自体を肯定する)
  • 自分が答えられない「なぜ?」が出てきたら、「俺もここは経験でやってるから、後で考えて答える」と正直に言う

「なぜ?」を聞ける場ができると、新人はやり方だけでなく、その理由も集めるようになります。

理由が分かると、新人は他の場面でも自分で判断できるようになります。

やり方だけ覚えると、教わった作業しかできなくなります。

これは、OJT担当が「全部教えなくても、新人が自分で動けるようになる」状態への入口です。

教える側の負担も減ります。「いつまで教えればいいのか」が、「理由を渡し終わったら、あとは応用」という形に変わります。

明日からできる、3つの最初の動き

OJT担当に任命された初日、まず動かしてみる手順をまとめます。

OJT担当 最初の3つの動き

  1. 新人に、この作業の平均(普通の人がどれくらいで終わらせるか・手直し割合)を伝える
  2. 良い例と悪い例の両方を、それぞれ理由と一緒に見せる
  3. 見本の後に「なぜ?」を聞いていいことを、口に出して伝える

このうち、1つでもやれば、新人の動きが変わってきます。

3つ全部やるのは、初日でなくても大丈夫です。少なくとも、初日に「基準(アベレージ)」だけは渡してください。

これがあれば、新人は自分の現在地と目指す位置を理解して、自分で動き始めます。

教える側がやることは、「自分の経験を全部見せる」ではなく、「新人が自分で動ける材料を渡す」に変わります。

これだけで、教える側の負担はかなり軽くなります。

OJT担当の仕事は、新人の「学ぶスキル」を引き出すこと

最後に、整理します。

OJT担当を任されたとき、「自分が教えなければ」と思って手取り足取りやり始めると、教える側が消耗します。

新人も、教えてもらった内容しかできない状態になります。

教える側の仕事は、自分の経験を渡すことではなく、新人が「学ぶスキル」を発揮できる材料を仕込むことです。

材料があれば、新人は自分で動きます。

明日の OJT で、まずひとつだけやってみてください。

基準を渡すだけで、新人の動きが変わりますから。

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