「さっき言った時はできていたのに、少し見ない間にまた戻っている」
現場で若手を教えていると、こういう場面があります。
- その場では返事もする
- やらせてみると、一度は直る
- だから教えた側は「分かってくれた」と思う
でも、しばらくして見ると、また前のやり方に戻っている。ここで「やる気がない」「聞いていない」と決めてしまうと、少し見方がズレます。
その場で直ったように見えるのは、言われた直後で意識がそこに向いているからです。
まだ仕事の中で使える状態になったとは限りません。
指導直後にできることと、作業の中で続けられることは別です。
若手が元に戻るのは、現場の作業に戻った瞬間に、体がいつもの楽な動きへ戻ってしまうことがあるからです。
直後にできるのは身についたからではない
指導した直後にできると、教える側は少し安心します。
「よし、今ので分かったな」と思いたくなります。
でも、その時に起きているのは、身についた状態ではなく、強く意識している状態です。
教えられた直後は、本人も言われたことを覚えています。見られていることも分かっています。だから、いつもより丁寧にやろうとします。
その一回は、本人の実力だけで出た動きではなく、教えた直後の緊張感や記憶に支えられた動きです。
その一回だけで「もう分かった」と見るのは、少し早いです。
現場では、
- 手元を見る
- 次の部品を取る
- 時間を気にする
- 音を聞く
- 周りの動きに合わせる
いろいろな情報が同時に入ってきます。
その中でも同じ動きができて、初めて「身につき始めた」と見てよい状態です。
直後にできた一回だけで判断すると、教えた側が早く安心しすぎます。
まだ、負荷がかかった場面で続くかまでは見えていません。
現場の負荷で元に戻る
人は、やりにくい動きよりも、慣れていて楽な動きへ戻ります。
これは若手に限った話ではありません。
慣れた動きは、考えなくても出やすいからです。逆に、新しく教わった動きは、まだ意識していないと出てきません。
- 少し急いだ時
- 見にくい位置になった時
- 次の工程が気になった時
- 手元が窮屈になった時
そういう場面になると、新しく教えられた動きより、前からやっている動きの方が出やすくなります。
例えば検品なら、最初は見る順番を守っていても、忙しくなると目についたところから見始める。
組立なら、最初は部品の向きや当たりを確認していても、慣れた手順に戻って確認が抜ける。
段取りなら、最初は必要なものを先にそろえていても、途中から目の前の作業に飛びつく。
溶接でも、指導された角度や狙いを意識して始めたのに、少し進むと自分が楽な姿勢へ戻ることがあります。
どれも、本人が反抗して戻しているわけではなく、作業の負荷がかかった時に、体と目線がいつもの動きに戻っているのです。
そこで教える側は、「どんな負荷がかかった時に戻るのか」を見る必要があります。
本人は戻った瞬間に気づきにくい
厄介なのは、本人が「戻った」と思っていないことです。
教える側から見ると、前と同じ動きに見えます。でも本人の中では、「さっき言われたことを意識してやっているつもり」になっている場合があります。
ここにズレがあります。
教える側は、直したつもりだった。本人も、直しているつもりだった。それなのに、作業の途中で少しずつ前の形に戻っていく。
戻り方が少しずつだと、本人は気づきにくいものです。
一気に大きくズレれば自分でも分かります。けれど、角度が少し戻る、見る順番が少し変わる、確認の一つが抜けるくらいだと、本人の中では「まだできているつもり」のまま進みます。
この時に「何回言ったら分かるんだ」と言っても、本人には刺さりにくいです。
本人からすると、言われたことを無視している感覚がありません。
必要なのは、責めることではなく、戻った場所を一緒に見ることです。
「ここから前のやり方に戻っている」
そこが見えると、本人も初めて自分のズレに気づけます。
結果だけ見ると遅くなる
若手が元のやり方に戻ってしまう時、完成したものだけを見ても原因はつかみにくくなります。
結果を見れば、失敗していることは分かります。でも、どこで戻ったのかは分かりません。
- 最初から違っていたのか
- 途中で急いだ時に崩れたのか
- 持ち替えた瞬間に戻ったのか
- 確認する順番が変わったのか
ここが見えないと、指摘がどうしても大きくなります。
「もっと丁寧に」「ちゃんと確認して」「次は気をつけて」という言い方になりやすい。
でも、その言葉では若手は動きにくいです。本人の中で、どの場面の何を変えればいいのかが見えていないからです。
教える側が見るべきなのは、最後の結果だけではありません。元に戻りやすい入口です。
入口が分かれば、指導はかなり小さくできます。
全部を直すのではなく、戻り始める一点だけを扱えるようになります。
見る場所を先に決める
現場でずっと横につく必要はありません。むしろ、全部を見ようとすると教える側も続きません。
見る場所を先に決めます。
- 作業に入る最初の一手
- 持ち替えや姿勢が変わるところ
- 見る順番が崩れやすいところ
- 急ぎ始めるところ
- いつも同じ失敗につながる手前
こういう場所だけを短く見ます。戻る場所は、作業全体の中に均等にあるわけではありません。
多くの場合、姿勢が変わるところ、急ぐところ、次の工程に意識が移るところに出ます。
全部を見るより、崩れやすい場所を先に決めた方が見つけやすくなります。
そして、若手にも先に伝えておきます。
「ここまでやったら一回見せて」
「この作業に入る前だけ声をかけて」
「ここで前のやり方に戻りやすいから、そこだけ一緒に見よう」
このように区切ると、指導は注意ではなく確認になります。若手も、何を見られているのかが分かります。
見られる場所が分かっていると、本人もそこに意識を置けます。何を見られるか分からない状態より、直す対象がはっきりします。
次の一回で変える一点にする
戻る場所が見えたら、次にやることは多くありません。次の一回で変える一点を決めます。
ここで、あれもこれも言いすぎると、また元に戻ります。若手の頭の中に入る量には限界があります。
特に作業中は、説明をたくさん覚えるより、次に見る場所が一つ決まっている方が動きやすくなります。
例えば、
- 次は最初の向きだけ見る
- 次は持ち替える前に一回止める
- 次は右からではなく左から確認する
- 次は急いだ時ほど順番を変えない
- 次はこの線を越える前に声をかける
このくらいまで小さくします。小さくするのは、甘やかすためではありません。現場で実際に変えられる形にするためです。
「ちゃんとやって」では動けません。「ちゃんと」という言葉の中身が広すぎます。「ここだけ変える」まで落とすと、次の一回で試せます。
試せる大きさまで小さくしておくと、戻った動きを直すきっかけになります。
戻る前提で練習を組む
若手が元に戻ることを、失敗としてだけ見ると教える側が疲れます。
でも、元に戻る前提で見れば、練習の組み方は変わります。人は、意識している時だけ別の動きができることがあります。
教育では「その場でできたか」だけでなく、「作業に戻っても続くか」まで見る必要があります。
- 最初から長くやらせない
- 戻りやすいところで一度区切る
- 戻ったら責めるのではなく、戻った場所を見せる
- 次の一回で変える一点だけ渡す
この流れを作ると、若手は「何を直せばいいか」が分かりやすくなります。
教える側も、「また戻っている…」と感情で見るのではなく、「どこで戻ったか」を見られるようになります。
指導直後だけできる若手は、そこで終わらせると元に戻ります。作業の中に戻ると、前のやり方の方がまだ体に残っています。
見るべきなのは、返事ではありません。その作業に戻った後、どこで前のやり方に戻るかです。
そこが見えると、指導はただの注意ではなく、次の一回を変える材料になります。