「新人入るから、また見ておいて」。
現場で何度も見てきた、OJT担当者が疲弊する一言の入り口です。自分の仕事は減っていない、何をどこまで教えるかも決まっていない、新人がミスをすれば「ちゃんと見てたのか」と言われる。
OJTを真面目にやろうとした人ほど、こうやって追い詰められていきます…。
これは、OJT担当者の面倒見が悪いからではありません。会社が、任せる前に決めることを決めていない。
問題は人ではなく、仕組みのほうにあります!
OJTが丸投げになる瞬間
OJTの丸投げは、怒鳴り声や明らかな放置から始まるとは限りません。むしろ、もっと普通の顔をしています。
「いつも通り、あの人に見てもらおう」「現場のことは現場が一番分かっているから」「細かいことはやりながら覚えればいい」。どれも、言っている側からすると自然です。
製造業では、実際の作業を見ながら覚えることも多い。現場でしか伝わらない感覚もあります。だから、OJTそのものが悪いわけではありません。
問題は、現場に任せる前の準備が抜けていることです。
- 何を教えるのか
- どの順番で教えるのか
- どこまでできればOKなのか
- 誰が確認するのか
- 教える時間をどう扱うのか
ここがないまま任せると、OJTは仕組みではなく、人の善意に乗ります。
そして善意に乗った教育は、長く続きません。
欠陥1: 教える範囲が決まっていない
最初に詰まるのは、教える範囲です。「一通り教えておいて」「できるようにしておいて」と言われても、OJT担当者は何をどこまで見ればいいのか分かりません。
- 初日に教えること
- 1週間でできてほしいこと
- 1か月後に任せたい作業
- 上司が確認すること
- 本人が自分で見返すこと
この線引きがないと、OJT担当者が全部抱えます。
- 安全も見る
- 品質も見る
- 段取りも見る
- 質問にも答える
- ミスが出ればフォローする
- 上司への報告もする
そのうえで、自分の仕事は残ったままです。これで疲れない方が難しいです…。
範囲を決めるというのは、OJT担当者を縛ることではありません。むしろ逆。
どこまでを任せるのかを決めるから、担当者の負担が見えるようになります。
| 項目 | 決めること |
|---|---|
| OJT担当者が見ること | 作業中の確認、つまずき、危ない動き |
| 上司が見ること | 到達目標、配置、業務量の調整 |
| 本人が確認すること | 手順、OK/NG例、質問する基準 |
「見ておいて」と言う前に、まずここを分ける。
それだけで、OJTはかなり変わります。
欠陥2: 教える順番が人によって変わる
できる人の頭の中には、順番があります。
- 最初に見る場所
- 先に覚えないと危ないこと
- 後回しにしていい作業
- つまずきやすい場所
ただ、それが会社として見える形になっていないことが多いです。だから、教える人によって順番が変わるんです。
ある人はいきなり作業をやらせる。別の人は手順書を読ませる。また別の人は「横で見ておいて」と言う。
新人からすると、どれが基本なのか分かりません。
前に教わったことと違う…、今日言われたことも違う…、何を優先すればいいのか分からない…。こうなると、覚える前に迷います。
「覚えろ」と言う前に、覚えられる順番を用意する。たとえば最初は、これで十分です。
- 完成形を見せる
- OK例とNG例を比べる
- 手順を短く区切る
- その場で1回やってもらう
- 危ないところとズレやすいところを確認する
- 最後に本人の言葉で説明してもらう
完璧な教育カリキュラムはいりません。毎回その場の気分で教えないこと。誰が教えても、最初に渡す順番をそろえること。
まずはそこからです。
欠陥3: OK/NGの判断基準がない
現場では、よくこういう言葉を使います。
「ちゃんと見て」「しっかりやって」「きれいに仕上げて」「危ないと思ったら止めて」。
言いたいことは分かります。でも、新人には使えません。
- ちゃんと見るとは、どこを見ることなのか
- きれいとは、どこまでの状態なのか
- 危ないとは、どの動きや形のことなのか
ここが見えていないと、新人は毎回OJT担当者に聞くしかありません。
そして担当者は、自分の作業を止めて説明する。また同じ質問が来る、また止まる…。
判断基準は、言葉ではなく見える形にします。
| 悪い渡し方 | 良い渡し方 |
|---|---|
| ちゃんと見て | この位置がズレたら止める |
| きれいに仕上げて | この状態ならOK、この状態ならNG |
| 危なかったら聞いて | この3つに当てはまったら確認する |
| 見て覚えて | OK例とNG例を並べて比べる |
OK例だけでは足りません。NG例も必要です。
- どこまでなら許容範囲なのか
- どこからやり直しなのか
- どの状態なら確認するのか
ここまで決まると、新人は自分で判断しやすくなります。
OJT担当者も、毎回ゼロから説明しなくてよくなります。
欠陥4: 教える人に教え方を渡していない
ここが、かなり大きいです。
技術が高い人が、教えるのもうまいとは限りません。
- 作業がうまい人
- 段取りが早い人
- 品質を見る目がある人
- トラブル対応ができる人
そういう人にOJTを任せたくなる気持ちは分かります。ただ、その人が自分の技術を新人向けに分けて説明できるとは限りません。
むしろ、うまい人ほど「見れば分かる」「慣れれば分かる」と言ってしまいがちです。
これは本人に悪気があるわけではなく、教え方を教わっていないからです。
たとえば溶接なら、ベテランの自己流がその人の中では成立していることがあります。
- 突き出し長さ
- 角度
- 狙い位置
- 体の使い方
本人はそれでうまく仕上げられる。でも、その完成形を新人にそのまま渡すと、基本を飛ばした難しいやり方になります。
守破離(しゅはり)で言えば、ベテランの自己流は「離(り)」に近い。
新人に最初に必要なのは「守(しゅ)」です。
ここを混ぜると、教える側も教わる側もしんどくなります…。
OJT担当者に渡すべきなのは、細かい台本ではありません。
- 相手の現在地を見る
- ゴールまでを小さく分ける
- OK例とNG例を用意する
- どこで確認するか決める
- できたところと危ないところを分けて伝える
この型があるだけで、自己流のばらつきは減ります。
教え方を渡すことは、ベテランを否定することではありません。
「あなたのやり方がダメです」ではなく、「あなたはもう自分流まで行っている。だから新人には、まず基本を渡してほしい」と整理する。
この言い方なら、ベテランの経験を活かしながら、若手に必要な基本へ戻しやすくなります。
欠陥5: 教育時間と評価がない
最後に、時間と評価です。ここがないと、OJT担当者は静かに疲れていきます。
- 新人を見る
- 質問に答える
- ミスを直す
- 危ないところを止める
- 上司に報告する
これだけのことをしているのに、
- 本来業務は減らない…
- 納期も変わらない…
- 生産数も変わらない…
- 評価も変わらない…
これでは、教えるほど損をする構造になります。
しかも若手がミスをすると、「ちゃんと教えたのか」と言われる。
教える時間はない、教えたことは評価されない、でも失敗したら責任は来る。
これでOJT担当者に前向きになれという方が無理があります…。
教育を仕事として任せるなら、会社側も仕事として扱う必要があります。
- 教育時間を業務として確保する
- OJT担当者の本来業務を一部調整する
- 教えた内容を記録する
- 若手の成長だけでなく、教えた人の貢献も見る
- OJT担当者にもフィードバックする
評価されない教育は、善意に依存します。善意に依存した教育は、長く続きません。
OJT担当者を使い捨てにしないことです。
会社が先に渡すもの
OJTを丸投げにしないために、会社が先に渡すものは3つです。
1. 教える範囲
誰が、何を、どこまで見るのかを決めます。
初日、1週間、1か月で分けて、OJT担当者が見ることと、上司が見ることも分ける。本人が自分で確認することも決めておきます。
2. 教える型
教える人の自己流に任せないために、最初の型を渡します。
完成形を見せる、OK/NGを見せる、短くやらせる、本人の言葉で説明してもらう、止まる基準を確認する。この5ステップだけで十分です。
3. 確認と評価の仕組み
OJTは、任せて終わりではありません。
若手がどこまでできるようになったか、OJT担当者が何を教えたか、どこでつまずいているか、次に何を整える必要があるか、ここを確認します。
そして、教えた人の負担と貢献も見る。
OJT担当者を使い捨てにしないこと。これが会社の役割です。
OJT丸投げチェックリスト
次の項目に当てはまる数を確認してください。
- OJT担当者の本来業務が減っていない
- 教える範囲が決まっていない
- 何から教えるかが人によって違う
- OK/NG例がない
- 新人が自分で確認できる資料がない
- OJT担当者が教え方を学ぶ機会がない
- 教育時間が業務として扱われていない
- 教えたことが評価されていない
- OJT担当者が休むと教育が止まる
- 「見て覚えろ」が主な教え方になっている
目安は次の通りです。
| 当てはまる数 | 状態 |
|---|---|
| 3個以上 | OJTが個人任せになり始めている |
| 5個以上 | OJT担当者の疲弊リスクが高い |
| 7個以上 | 教育設計の見直しを優先する |
大事なのは、OJT担当者本人を採点することではありません。
会社として、教える人に何を渡しているかを見ることです。
まとめ OJTは任せる前に設計する
「新人を見ておいて」と任せるだけでは、OJTは個人の善意に乗ります。そして、善意に乗った教育は長く続きません。
OJTを見直すときは、担当者本人の努力を見る前に、会社として何を渡しているかを確認する。
- 教える範囲
- 教える順番
- OK/NGの基準
- 教え方
- 教育時間と評価
OJTは、任せる前に設計する。
ここから現場教育は変わります!
若手が育つ教育設計を点検する
OJT担当者に何を任せるか。どの順番で教えるか。どこで止まるか。何を見ればOKか。教えたことをどう評価するか。
このあたりが決まっていないと、OJTは人によってバラバラになります。
若手が育つ教育設計チェックシートでは、研修・OJT・1on1・技術継承を20項目で確認できます。まずは、自社の教育で何が揃っていて、何が抜けているかを確認してください。