どんなトラブルが起こっても、部下がどんなミスをしたとしても、冷静かつ柔軟に対処できる人がいます。
このような人のことを、
「器が大きい」とか「度量が大きい」とか「懐が深い」と言います。
専門用語でいうと、「心理的柔軟性」が高い状態の人ですね。
この「心理的柔軟性」が高まると、部下から絶大な支持を得ることができます。
言葉だけ聞くとむずかしそうに思いますが、、、大丈夫です。
なぜなら心理的柔軟性は、練習すれば誰でも身に付けることができる「スキル」だからです。
そこで今回は、部下からの信頼と尊敬をWで得る!心理的柔軟性を高める3つの要素の内、2つをピックアップして解説したいと思います。
この記事は、『心理的安全性のつくりかた』(石井遼介/日本能率協会マネジメントセンター)の第2章「リーダーシップとしての心理的柔軟性」を参考に書いています。
心理的柔軟性とは?
まずはじめに、心理的柔軟性について解説したいと思います。
心理的柔軟性とは、立場・状況・文脈に応じて「柔軟に」役に立つ行動に切り替える「しなやかさ」のことを言います。
つまり、さまざまな思考に対して、
「いま、この状況・この文脈で役に立つのであれば、その考えを採用する」
「いま、役に立っていないのであれば、別の考え方を試そう」
という考え方です。
なぜこの考え方が必要なのかというと、
- 自分の行動への影響
思考や感情にとらわれて、行動を制限されなくなる - 相手に与える影響
心理的安全性を高める行動を増やし、罰や不安を与える自分の行動を変える
このような影響があるからです。
本書の中では、心理的柔軟性を高めるために必要な要素を3つあげています。
- 必要な困難に直面し、変えられないものを受け入れる
- 大切なことへ向かい、変えられるものに取り組む
- 変えられないものと、変えられるものをマインドフルに見分ける
この記事では、特に重要だと思う1と2について解説したいと思います。
必要な困難に直面し、変えられないものを受け入れる
「必要な困難」とは、実際の障害や困難そのものよりも、「困難な思考や感情」のことを意味しています。
ようは、トラブルが起こったときに出てくる「負の感情」のことですね。
「変えられないものを受け入れる」ためには、
- 「思考=現実」という状態から脱出する
- イヤな気持ちをコントロールするのではなく受け入れる
この2つが重要です。
それぞれを解説しますね。
「思考=現実」という状態から脱出する
「思考=現実」とは、思考や感情でつくられたバイアス(つまり、認識の歪み)を通して、現実の世界を見ている状態。
簡単に言うと、「思考や感情」という特殊な色の入ったサングラスをかけているイメージです。
「バイアス」とは、思い込みや先入観、偏りなどの意味
これの何が問題なのかというと、無意識のうちのバイアス(認識の歪み)やステレオタイプ(単純化されたイメージ)で人を判断してしまうことです。
ステレオタイプとは、多くの人に浸透している「固定観念」や「思い込み」のこと。
わかりやすい例を出すと、血液型で人の性格を判断する人がそうですね。
「O型の人はおおざっぱな性格だ」
「この人はA型だから几帳面だ」
などなど。
その他にも、
「この人はいつも不機嫌そうだから、きっと短気で怒りやすい性格をしているんだ」
「前回このやり方でうまくいったから今回もうまくいくはずだ」
というような考え方もステレオタイプの特徴です。
思考を優先させてものごとを単純化してしまうことで問題が発生し、さらには現実のフィードバックを受け止めるための「感受性」が下がってしまいます。
この「思考=現実」から脱出するためにも、
「いま、この状況・この文脈で役に立つのであれば、その考えを採用する」
「いま、役に立ってないのであれば、別の考えを試す」
という「いま」のありのままの状況を感じ、柔軟に考えることが大事なんです。
嫌な気持ちをコントロールするのではなく受け入れる
「嫌な気持ちのコントロール」とは、ネガティブな思考・感情・感覚・記憶と戦い、回避・コントロールしようとすることです。
たとえば以下のようなことです。
- お酒を飲んで不安や寂しさを紛らわせようとする
- 何かもの足りない気持ちがあるとき、甘いものを食べたり、ゲームで気を紛らわせようとする
- 嫌な記憶を忘れるために「こんなことを考えてはいけない…何か楽しいことを考えよう」とする
これって普通にしてしまうことですよね。
しかし、嫌な気持ちをコントロールすることは何の役にもたちません。
むしろコントロールしようとすることこそが、問題をつくりだしてしまうんです。
たとえば、
- トラブルが発生したとき、メンバーを詰めたり責任を追及したりする
- 安心するためだけに会議や検討を行う
- 不安に起因する「マイクロマネジメント」や細かな報告書の要求など「挑戦」をくじくマネジメントが行われる
- 「役に立たない正論」を部下やメンバーにぶつけ、チームの心理的安全性を下げてしまう
このような、何の役にも立たないどころかマイナスにしかならない行動をしてしまいます。
次に「受け入れる」とはどういうことなのかというと、
思考を単に思考として、感情を単に感情として、感覚を単に感覚として、記憶を単に記憶として体験しようとすること「受け入れる(受容)」と言います。
まずは、「人生には苦痛があることがノーマル」だし、「ビジネスでは、大変なことが起きるのがノーマル」だということを受け入れましょう。
どうやって受け入れるのかというと、
- コントロールをあきらめる
- 配られたカードで戦うしかない。それが何であれ…という覚悟を決める
- ありもしない幻想を捨てる
- 何か条件が満たされれば、いつか苦痛などなく、嫌な気持が完全に追い出せていい気分でいられる、という幻想を捨てる
- 「それはちょうどよかった」と言う
- 「それはちょうどよかった」ととりあえず唱えることで、目の前で起きたトラブルにも、柔軟に対処できる人だ、ということを示すことができると同時に、周りの人の意識を「トラブルに対処すること」へ向けることができる
そうすることで、犯人探しや、焦る気持ちに集中するのではなく、現実的な対処ができるようになります。
理想的なのは、
仕事をしているうえでトラブルは起きるもの。これは仕事での前提に過ぎない。どうせなら「それを楽しもう♪」
という「柔軟で前向きな姿勢」でいられることです。
これを「創造的絶望」と言います。
さらには、
- ミスやトラブルなど、すでに起きてしまったのであれば、起きたという事実自体は変えられない
→変えられないもの - ミスやトラブルへの対応は、前向きに検討し、工夫することはできる
→「やれることを、やる」ことは可能
という「課題の分離」ができるようになれば、嫌な気持ちをコントロールせずにスっと受け入れることができるようになります。
「課題の分離」については、以下の記事にも詳しく書いているので参考にしてください。
参考記事
-
【仕事で病みかけの部下に読ませる本】心が軽くなる『嫌われる勇気』
2022/1/3
精神的に病みかけてる部下を救いたい! こう思っているのなら、『嫌われる勇気』を読ませてあげることをオススメ ...
大切なことへ向かい、変えられるものに取り組む
ここでいう「大切なこと」とは、自分が仕事へ向かうための「意味」や「意義」のことです。
たとえば
- 世の中の人の役に立つ活動をする
- 人を育てて生産的なチームをつくる
- 部下自身が成長を楽しめるような環境をつくる
などです。
これが、前に進むための推進力になり、心理的安全性をつくるための行動を増やすきっかけになります。
ここでのポイントは2つ
- 大切なことの明確化・言語化
- 大切なことに近づく行動をする
大切なことの明確化・言語化
大切なことの明確化・言語化がなぜ大事なのかというと、目的もなく「やらされている・こなしている」仕事は、ただお金を稼ぐ手段に過ぎず、「我慢するもの」に落ち込んでいくからです。
「大切なこと」とはコンパスと同じ。
目指すべき方向が明確になることで迷いがなくなり、やるべきことに集中できるようになります。
大切なことに近づく行動をする
「大切なことへ向かう」ことが大事なのはわかりましたが、いざ進もうとすると、その際にでてくるネガティブな思考が行動にブレーキをかけます。
たとえば、「困難な思考や感情」や「対人関係リスク」などです。
大切なところ、たどり着きたい場所に向かう途中でこそ、人は傷つきます。
だからこそ、大切なところへ実際に向かおう・具体的に行動しようとした時、「失敗するんじゃないか」「断られたらどうしよう」「恥をかくんじゃないか」「まだ時期じゃない」などと、行動を止めるような思考が浮かんでくる可能性が高いのです。
『心理的安全性のつくりかた』より引用
このネガティブな思考は「困難な考え」そのものです。
先にも書きましたが、
嫌な気持ちのコントロールは役に立たず、むしろコントロールこそが問題をつくりだしています。
なので、嫌な気持ちをコントロールせずに受け入れる。
そのうえで、いま自分のとっている行動、もしくはチームがとっている行動は、「大切なことへ近づく行動だろうか?」と振り返りながら行動を修正していくことが大事なんです。
的に向けて石を投げて、当たった・外れたと一喜一憂するのではなく、「大切なこと」という動く的に向けて、AIが搭載されたドローンが、近づきながら柔軟に軌道修正をしていくイメージです。
『心理的安全性のつくりかた』より引用
心理的柔軟性を身につけるためにもっとも重要なこと
今回は、『心理的安全性のつくりかた』(石井遼介/日本能率協会マネジメントセンター)第2章「リーダーシップとしての心理的柔軟性」P71~P152 で紹介している心理的柔軟性の3要素を参考に書きました。
心理的柔軟性を身につけるためにもっとも重要なのは、「気づきに満ちた状態でいること」です。
つまり、頭の中の思考や感情の渦にとらわれず、いま、この場で進行中の出来事に気づき続ける状態であることです。
「変えられないもの」と「変えられるもの」をマインドフルに見分ける
本書ではこの「マインドフルに見分ける」というパートだけで、P128~P151 をつかって解説しています。
それほどリーダーとして重要なスキルだということですね。
ちなみに、心理的柔軟性は「スキル」なので、練習すれば誰でも身につけ高めることができます。
心理的柔軟性を高めれば、
「器が大きい」
「度量が大きい」
「懐が深い」
このような印象を与えることができ、部下から絶大な支持を得ることができます。
最後に、
「心理的柔軟性」についてさらに理解を深めたい方、心理的安全性を高めるリーダーシップを発揮したい方は、『心理的安全性のつくりかた』(石井遼介/日本能率協会マネジメントセンター)を一読し実践してみてください。
あなたの魅力をさらに高め、仕事・家庭・プライベートすべてが充実することは間違いでしょう。
なぜなら、心理的柔軟性のある考え方ができる人は、周りに安心感(心理的安全性)を与えることができるからです。
これほどまでに「心理的安全性」に特化した書籍は他にはありません。