声をかけると、若手が今やっていた手を止めて、すぐにそっちへ来る。
こちらからすれば「それは後でよかったのに」という用事で、先に片づけてほしかった作業のほうが、止まったまま置き去りになる。
こういう動きを見ると、つい「動きが遅い」「気が利かない」「優先順位が分かっていない」と、本人の出来の問題として片づけたくなります。
ただ、本当に見たほうがいいのは、そこではありません。
目の前で頼まれた用事と、今止めたら困る作業。この二つを一度見比べる力が、まだ育っていない。
要領が悪いと言われる若手で起きているのは、たいていこれです。
ここからは、要領の良し悪しを性格や才能ではなく、「頼まれた瞬間に何をしているか」という動きの違いとして見ていきます。
- 若手を叱る前に、本人と何を一緒に見るのか
- 周りはどこまで待ち、どこから声をかければいいのか
そのあたりを、現場の動きに戻して整理します。
声をかけられた瞬間、若手の中で起きていること
要領が悪いと言われる若手を見ていると、だいたい同じことが起きています。
ある作業の途中で、別の用事を頼まれる。すると「今すぐやらないといけない」と受け取って、手を止めて動く。
本来は「少し待ってください、こっちを終わらせてから行きます」と返せればいいのですが、それが出てこない。
ここで抜けているのは、重要度と順番を一度見比べる動きです。
頼んだ側は「手が空いたらでいい」くらいのつもりでも、本人は目の前で声がかかったというだけで動いてしまう。
今やっている作業と、今頼まれた用事。どちらを先に片づけると全体が困らないか。その比較が、頼まれた瞬間に入らない。
だから、置かれた順番・頼まれた順番のまま手が動きます。
声をかけられた瞬間に手が動くのは、注意というものが、自分で向けるより横から引っぱられる方が強いからです。
しかも一度よそに気が向くと、前の作業のことが頭の片隅に残って、どちらも中途半端になる。そこへ急かされて焦ると、頭の余裕がさらに減って、また目の前の声に反応してしまう。
ここで、「でも結局、本人の要領が悪いだけじゃないの?」と言いたくなるかもしれません。
確かに、重要度を考えてから動いてほしい、という話ではあります。ただ、「要領が悪いやつ」で止めてしまうと、本人は何を直せばいいのか分からないままです。
直すのは性格ではなく、目の前の用事と止めたら困る作業を見比べる、この一点です。
要領が悪い若手で足りていないのは、頼まれた瞬間に、今の作業と頼まれた用事の重要度を一度見比べる、その習慣です。
叱る前に、まず手を止めて一緒に見る
要領が悪い動きが出ると、すぐに「次からはこうしろ」と言いたくなりますが、いきなり正しいやり方を渡しても、本人には責められたようにしか聞こえません。
「また怒られた」で終わって、何も残らない…。
私がやっているのは、順番を変えることです。
要領が悪い動きが出たら、まずその行動を一度止めて、本人と一緒に「今どういう状態だったのか」を客観的に見られるようにします。
「さっき声をかけられて、すぐそっちに行ったよね」
「そのあいだ、こっちの作業は止まっていたよね」
と、起きたことをそのまま並べる。そして「だから大事なところが後回しになって、結局あとで困ったよね」と、つながりまで一緒にたどります。
説教ではなく、起きたことを二人で眺める感じですね。
これをやると、本人はだいたい自分で気づきます。「ああ、確かに」「それはダメだな」と、見れば分かる。
人は否定されると守りに入りますが、自分で気づいたことは、すなおに受け取れます。
そこで初めて「じゃあ、どうすればいいか」の話に入れます。
叱って直させるのではなく、本人が自分の状態を自分の目で見て、自分で「まずいな」と思うところまでを先に作ります。
「要領が良い/悪い」は、性格ではなく動きの違い
本人が「確かに」と気づいても、そこでいきなり解決策を渡しません。
先に見せるのは、要領が良いとはどういうことか、悪いとはどういうことか、という動きの違いです。
ここは、現場を少し離れて、コンビニのレジを思い浮かべると分かりやすいです。
バーコードを一つずつピッとしている途中で、別のお客さんから「これはどこですか」と売り場を聞かれる。
そこで目の前のレジを止めて、そのまま売り場まで案内に行ってしまう。
これが、目の前の声に反応して飛びつく動きです。
レジに並んでいる人は、止まったまま待たされます。
もう一つ。温める弁当があるなら、先にそれをピッと通してレンジに入れてしまう。温まるのを待つあいだに、残りの商品を通していく。
こうすると、全体にかかる時間は短くなるんですが、要領が悪い人は、これをしません。
時間がかかるものを先に流すという発想がなく、置いてある順番のまま、ピッ、ピッ、ピッと通していく。
やっていることの違いは、たったこれだけです。
目の前に来たものに反応して順番どおり手を動かすか、一度全体を見て、先に流すべきものから手をつけるか。
製造の現場で「要領が良い/悪い」と呼んでいるものも、中身はこれと同じです。
要領が良い人は、頼まれてもすぐには動きません。
一度立ち止まって、今ある仕事を見渡して、何が重要で、何はそうでないかを見る。そのうえで、こう言えます。
- 「これは重要だから、先にやります」
- 「これは少し待ってください。何分だけください」
- 「これを片づけないと、あとで状態が悪くなるので、いったん止めてください」
並べると、違いがはっきりします。
| 目の前に飛びつく人 | 一度立ち止まる人 | |
|---|---|---|
| 頼まれた瞬間 | すぐ手を止めて動く | 一拍おいて、今の重要度を見る |
| 順番の決め方 | 置かれた順・頼まれた順のまま | 先に流すべきもの・時間がかかるものから |
| 言えること | 言えないまま動く | 「少し待ってください、これを終わらせてから」 |
| 見ている範囲 | 目の前の一つだけ | 全体の中での順番 |
違いは、頭の良さでも性格でもなく、一度立ち止まって全体を見てから動いているかどうか。
そこだけです。
「要領の良さなんて、教えて身につくのか」と思う人もいるかもしれません。
「全体を見て優先順位をつけろ」をいきなり身につけさせるのは、確かに難しい。でも、こうして良い動きと悪い動きを目に見える形にして、「立ち止まってから動く」の一点に絞れば、教えられる練習になります。
要領の良し悪しは、才能ではなく、目の前に反応するか、一度全体を見て先に流すものから手をつけるか、という動きの違いです。
第一歩は「まず一回、止まる」練習
とはいえ、「全体を見て優先順位をつけろ」と言っても、すぐにはできません。
それができないから、要領が悪いと言われているわけです。だから、いきなり大きな枠で考えさせない。
最初にやるのは、もっと小さいことです。
「何かを頼まれたら、まず一回止まる。ワンテンポ置いて、今いちばん大事なのは何かを、一回だけ考える」
教えるのは、まずこれだけにします。
すぐに動かない。一拍置く。
これを繰り返して、体に入れていく。
止まれるようになったら、次は「少し待ってください」と声に出す練習に進みます。
「立ち止まらせたら、余計に遅くなるんじゃないか」と思うかもしれませんが、順番は逆です。
今だけ急がせて飛びつかせると、置き去りになった作業があとで効いてきて、やり直しや手戻りで結局遅くなる。
一回止まる癖がついた方が、同じ失敗を繰り返さなくなります。
最初に教えるのは、段取りの全部ではなく、「まず一回止まる」という一手だけです。
周りに「今は練習中」と伝えておく
ここがいちばん大事なところです。
本人が「まず止まろう」とし始めても、周りがそれを知らなければ、止まって考えている若手を見て「何やってるんだ、早くしろ」と急かす人が出てきます。
その一言で本人の余裕が奪われて、また目の前に飛びつく。
せっかくの練習が、そこで戻ってしまう。
しかも、これは悪循環になります。
要領が悪いまま仕事が遅れると、周りがいらだって、もっと急かす。急かされて余裕を失い、また飛びつく。
本人だけを責めても、この回り方は止まりません。
だから、本人を教えるのと同時に、周りにも一言入れておきます。
「今までは要領が悪い動きになっていたけれど、こういう理由で、一回止まって考える練習をしているところです。少しのあいだ、考える時間を待ってあげてください」。
こう周知したうえで教育します。
「そこまで周りが待つ必要があるのか」と思うかもしれません。
これは甘やかしではなく、悪循環を断つための短い期間の話です。
ここで待たずに急かし続けると、本人はずっと飛びつきに戻り、周りもずっと尻ぬぐいで疲れていく。
少し待って練習を通した方が、最後はみんなが楽になります。
要領の悪さは本人だけの問題ではなく、周りが急かす空気とセットで固定されます。だから、本人の練習と、周りが急かさない合意は、両方そろって初めて動きます。
明日、現場で置ける一手
最後に、明日からできることを、三つだけ。
声のかけ方も、難しくする必要はありません。
動きを止めたいときは、こう言えば十分です。
「今すぐ動く前に、いったん止めよう。今いちばん、止まったら困る作業はどれか、一回だけ見てみよう」
要領の悪さは、本人の性格や能力で決まっているわけではありません。
注意が目の前に引っぱられやすく、急かされて余裕をなくすと、重要度を見比べる前に手が動く。そして、その余裕は、周りの空気でいくらでも変わります。
「要領が悪い」を性格の話で終わらせないことが、変わるための最初の一歩になります。