「トーチ角度が悪い!」
「狙いがズレてるやん!
そう何回も言っているのに、同じ欠陥が出る。
教える側として、いちばんしんどいのはここです。
欠陥の名前は分かる。一般的な原因もたぶん説明できる。それでも、目の前の若手に「何を見せて、どの動きを直させればいいのか」がはっきりしない。
この記事は、その一点に絞ります。
溶接欠陥は偶然入るのではなく、たいていは、角度・狙い位置・進行角度・クレーター処理といった「操作」がズレた結果として出ています。
だから直すのは、本人のセンスでも、性格でも、根性でもなく「操作」です。
欠陥を「ただの結果」として見るのをやめて、「どの操作がそうさせたのか」という記録として振り返る。これができると、「何を見せ、どこを直させるか」が決まります。
「何回言っても直らない」のは、原因が直っていないから
若手が同じ欠陥を繰り返すとき、教える側はつい「やる気」や「集中力」の問題に寄せがちですが、問題はそこではありません。
根本原因を直さない限り、いくら練習しても、欠陥が出ない状態にはなりません。むしろ、ズレたまま練習するほど、悪い癖の方が固まってしまいます。
なので、この問題を解決するには「この欠陥はどの操作から出ているのか」を見ます。
それが分からないまま「もっとやれ」と言うのは、ズレた的に向かって、矢の数だけ増やすようなものです。本数は増えても、当たるようにはなりません。
欠陥が繰り返されるのは、たいてい「やる気」や「集中力」の問題ではなく、原因がまだ直っていないだけです。
外観はきれいでも、内部は悪い溶接は多い
若手がいちばん勘違いしやすいのが、ここです。
外観がきれいなら、品質も良いはずだと思って、見た目を整える練習に寄っていきます。
たしかに外観は大事です。整っていないビードは、それだけで何かがズレているサインになります。
ただ、外がきれいなことと、中まで良いことは、別の話です。
人と同じで、外見をいくらかっこよくしても、中身が伴っていなければ、本当に良いとは言えません。
溶接も、表面を整えることだけを覚えると、見えない中身が置き去りになります。表面はきれいだが、内部の溶け込みが足りない。クレーターに割れの原因(クラック)が残っている。見た目はそれらしくても、必要なところに熱が入っていない。
そういう溶接をたくさん見てきました。
ここが、教える側の難しいところです。
目に見える悪さは、説明しやすいし、本人にも分かります。しかし、内部欠陥になると、本人は「何が悪かったのか」をつかめません。
つかめなければ、直しようがない。
だからこそ、外観の奥で何が起きているかをイメージさせます。
- 今の角度なら、熱はどちら側に入るのか
- その狙い位置なら、どこが溶けにくくなるのか
- 終わりで急に切れば、どこに負担が残るのか
「中をイメージしながら溶接する」。
これを言葉だけで終わらせず、欠陥サンプルとセットで見せていく。
何を見せるかの第一歩は、外観ではなく「中で何が起きているのか」を見せることです。
欠陥は「結果」ではなく「操作の記録」として読む
ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。
欠陥を「失敗の結果」として見ると、出てくる言葉は「下手」「雑」「センスがない」で止まります。
これでは、次に何を変えればいいのか分かりません。本人にも伝わりません。
そこで、見方を一つだけ変えます。
欠陥は、本人が直前にやった操作の記録だと考える。
どんな欠陥にも、その状態になった操作上の理由があります。だから、欠陥から操作へさかのぼれます。
現場で戻す先は、まず次の3つに絞ると扱いやすいです。
| 操作因子 | 若手に伝える意味 |
|---|---|
| トーチ角度 | 熱がどちら側に入るかを決める |
| 狙い位置 | 熱を集中させる場所を決める |
| 進行角度 | ビードの広がり方・盛り方・終わり方に影響する |
全部を一度に教えなくてかまいません。最初はこの3つだけで十分です。
欠陥が出たら、「どの操作がズレたか」をこの3つから探す。角度、狙い位置、進行角度。見る順番を決めておくと、毎回の見方がぶれません。
そして、これにもう一つ加えるなら、終わり方です。
溶接をどう終わらせるか、つまりクレーター処理で、終端に割れや穴が残るかどうかが変わります。走っている最中だけでなく、最後の数秒も操作の一部だと考えます。
よく出る欠陥を、操作因子に戻して読む
溶接欠陥を全種類並べると、辞典になります。
辞典は便利ですが、若手に明日教えるための道具にはなりにくいです。
なので、よく出るものに絞って、「中で何が起きているか」と「どの操作を確認するか」をセットで持っておきます。
| 欠陥 | 中で起きていること | 戻すべき操作 | 次に直す一点(例) |
|---|---|---|---|
| 溶け込み不良 | 片側に熱が入りきっていない | 角度・狙い位置 | 角度を中間へ戻し、熱を入れたい側へ狙いを合わせる |
| 内部欠陥(クレーター部など) | 外からは見えにくい場所で熱が偏っている | 角度・狙い位置 | トーチの倒しすぎを戻し、薄い側へ熱を入れすぎない |
| クレータークラック | 終端が急に冷えて割れる | クレーター処理 | 終わりで急に切らず、温度を落としながら終える |
| オーバーラップ | ビードがこんもり盛り上がり、母材になじんでいない | 進行角度 | 倒しすぎを戻し、ビードが広がる方向へ流す |
| 脚長不足 | 下側だけ肉が付き、上が足りない | 角度 | 角度が外へ逃げないようにし、上下の肉付きを確認する |
大事なのは、欠陥を見たら必ず「中で何が起きたか」と「どの操作に戻すか」をセットで言葉にすること。
表は、その練習のたたき台です。
若手に「何を見せ、どこを直させるか」
ここが、教える側がいちばん知りたいところだと思います。
欠陥サンプルを「これが悪い例な」と見せるだけでは弱いです。
若手は「悪いこと」は分かっても、自分の動きとつながらないからです。
見せる順番を、こう決めておきます。
- まず、欠陥そのものを見せる
- 次に、外からは分かりにくくても、中で何が問題なのかを言葉にする
- そのうえで、どの操作が原因候補かを、角度・狙い位置・進行角度から説明する
- 最後に、「次の溶接で直す操作」を一点だけ決める
溶け込み不良なら、こう話します。
ここ、片側に熱が入りきってへんやろ。外から見たらそこまで悪く見えへんねんけど、中がこうなってたら、品質としては成立せえへん。
原因は、角度が中間から外れてたか、狙いが片側に寄ってたか、どっちかやと思う。
次の一本は、ここに熱を入れるつもりで、角度と狙いを合わせてやってみよか。
この順番にすると、欠陥が「ダメ出し」ではなく、次に直す一点を決めるための材料になります。
ポイントは、最後に必ず「一点だけ」に絞ることです。あれもこれも直させようとすると、若手はどれから手をつけるか分からなくなるからです。
今日の一本は、これだけ直す。それで十分です。
「練習しろ」を「これを直せ」に変える
最後に、練習のさせ方です。
溶接に練習量が必要なのは、間違いありません。
ただ、原因を見ないまま本数だけ増やすと、同じ欠陥を量産することになります。ズレた角度のまま、ズレた狙いのまま、何十本やっても、固まるのは悪い癖の方です。
なので、練習の前後に、3つの問いを置きます。
この3つがあるだけで、同じ本数でも練習の中身が変わります。
「とにかく数をこなす」から、「原因を一つずつ消す」に変わるからです。
若手に本当に渡したいのは、欠陥が出たときに、どこへ戻ればいいかという地図です。
溶接欠陥は、本人を責めるための材料ではなく、次に直す操作を教えてくれる材料に変わります。