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ベテランを変えるな、役割を変えろ!教え方が下手な人を動かす設計

ベテランを変えるな、役割を変えろ。説得をやめて設計するOJT設計のアイキャッチ

若手からは「あの人の言っていることが分かりません」と泣きつかれ、ベテランに「もう少し丁寧に教えてくださいよ」と頼めば「最近の若いやつは」と不機嫌になる。

現場の班長や係長として、この板挟みの調整だけで毎日消耗していませんか?

何度お願いしても教え方が変わらないのは、ベテランの性格が悪いからでも、意地悪をしているからでもありません。

彼ら自身も昔、誰からも教え方を教わらないまま、現場で必死に自己流のやり方を身につけてきた被害者なのです。だからこそ「教え方が下手」というニュアンスが少しでも伝わると、自分の長年の苦労や実績まで否定されたように感じて、猛反発してしまいます。

自己流が染み付いたベテランを動かすのに、正面からの説得は逆効果です。

必要なのは、ベテラン自身を変えようとするのをやめて「ある役割」を渡すこと。

それだけで、本人の口から「自分のやり方は、新人に教えるにはまだ早かったな」という言葉を引き出すことができます。

明日からすぐ、現場のミーティングで仕掛けられる具体的な手順をお伝えします。

教え方が下手なベテランは、本人を直接変えようとしない方が、結果として変わります。

なぜ「もっとちゃんと教えてください」が効かないのか

ベテランに「教え方を変えてください」と直接言うと、反発が返ってきます。

これは、ベテランの性格が悪いからではありません。長年積み上げてきた成功体験が、その人の自尊心と結びついているからです。

「教え方が下手」と指摘した瞬間、ベテランの頭の中ではこういう処理が走ります。

「自分は今まで結果を出してきた」
「自分のやり方で多くの仕事を回してきた」
「それが間違っていると言うのか」
「自分が悪いと言われているのか」

ここで本人が向かうのは、「自分の正しさを証明する方向」です。

直接の指摘は、本人を変えるどころか、自己流をさらに正当化させる結果になります。

これは、対立構造を生むだけです。

「もっとちゃんと教えてください」「もっと丁寧に説明してください」と言う回数を増やしても、現場の指導は変わりません。

むしろ、ベテランが指導役そのものから降りようとする方向に進みます。

ここで管理側が消耗します。

「自分が話せば話すほど、関係が悪くなる」
「指摘しても無視されている気がする」
「これ以上どう言えばいいか分からない」

ベテランを直接変えようとしている限り、この消耗ループから抜けられません。

教え方を変えるには、ベテランを変えるんじゃなく、役割を変える

ここで視点を変えます。

ベテラン本人の意識を変えるのではなく、ベテランに新しい役割を渡して、その役割の中で気づいてもらう設計にします。

これは「直接説得ではなく、役割設計で気づかせる」という考え方です。

具体的に何をするかというと、ベテランに若手教育の中心を任せることです。

「あなたに新人の指導を全面的にお願いしたい」と渡します。これだけ聞くと、いままで「教え方が下手」と感じていたベテランに教育を任せるのは矛盾しているように見えます。

しかし、ここがポイントです。

ベテランが「自分の作業を見せる人」のままだと、自己流の押し付けで止まります。

「教える役割」を担うと、初めて「相手に伝わるか」「相手が動けるか」という観点が必要になります。

役割が変わると、見える景色も変わります。

ただし、ここで丸投げするとうまくいきません。

「あとは任せた」と渡すと、ベテランは自分のやり方をそのまま新人に伝えてしまいます。これでは何も変わりません。

ベテランに役割を渡すときに、こちらが一緒に渡すものが必要です。

教育を任せる時に、こちらで設計して渡すもの

ベテランに若手教育を任せる時、管理側が一緒に渡すのは、細かく設計したカリキュラムです。

カリキュラムの中身は、こういうものになります。

  • 教える内容の順番(何から始めて、どこに到達するか)
  • 教える時の基準(何ができたら次に進むか)
  • 良い例・悪い例のセット(判断材料)
  • うまくいくパターンと、失敗するパターンの両方
  • 若手が「なぜ?」と聞いてきた時の、答えの方向性
  • ベテラン本人が知らない可能性のある、効果的なアプローチ

このカリキュラムの中に、ベテラン本人が気づいていない有効な手段 を意図的に盛り込みます。

たとえば、こういう要素です。

  • 自尊心を傷つけないフィードバックの渡し方
  • 「合図」を行動の直前に置く設計
  • 補助を出して徐々に外す手順
  • 守破離の「守」を最初に教える順番

ベテランは、このカリキュラムを使って若手を教える過程で、こう気づきます。

「あ、これは自分が今までやってきた教え方とは違う」
「でも、確かに新人がよく動くようになっている」
「いま自分が使っているこの順番、自分が若手の時にもこうやって教えてもらえばよかった」

気づきが、本人の中から出てきます。

これが、直接「あなたの教え方は違う」と言うのとは、まったく違う結果を生みます。

ベテランが気づくのは、自分のやり方が「離」だったこと

ベテランが教育役割を担う中で気づくことは、もうひとつあります。

それは、自分の今のやり方が「離」の段階にあったということです。

守破離(しゅはり)という言葉があります。

基本(守)から始めて、それを破り、最後に自分の流派(離)を作る考え方です。

長年現場で経験を積んだベテランは、ほとんどが「離」の段階にいます。基本を踏まえて自分なりに改善し、自分の流派を作っている状態です。

ところが、若手は「離」を学ぶ段階にはいません。基本(守)から積み上げないといけません。

ベテランが「自分のやり方」を直接見せると、それは「離」のやり方を渡していることになります。

基本がない若手にとって、「離」のやり方は再現できません。

ベテランが教育役割を担って、こちらが設計したカリキュラムで「守」から教える経験をすると、こう気づきます。

「自分がやっているのは、もう基本ではなかった」
「若手にいきなり自分のやり方を渡しても、無理だった」
「自分にはこれだけの経験があるからできるだけで、新人にはまだ前提がない」

これは、本人を傷つけずに教える観点を更新する動きです。

「あなたのやり方は間違っている」と言うのではなく、「あなたのやり方は『離』として完成しているけれど、若手には『守』が必要」という構造として、本人が自分で気づきます。

ベテランの自尊心を守りながら、教育観を更新する

この設計で、ベテランの自尊心は守られます。

直接「あなたは間違っている」と言われないからです。むしろ、「あなたの経験を活かして、若手に基本から渡してほしい」という形で役割が渡されます。

ベテランは、自分の経験が否定されたとは感じません。

その上で、カリキュラムを使って若手を教える過程で、本人の中から「教え方の更新」が起こります。

これは、直接の指摘では絶対に届かなかった気づきです。

管理側がやることは、ベテランへの説得をやめて、カリキュラム設計に時間を使うことです。

説得の時間は0になり、設計に時間がかかります。

ただし、設計したカリキュラムは複数のベテラン・複数の現場で再利用できます。

長い目で見ると、説得を繰り返すより、はるかに効率が良くなります。

明日からできる、ベテランへの役割の渡し方

明日から動かす手順は、こうなります。

ベテランに若手教育を任せる時の渡し方

  1. ベテランに「あなたに若手の指導を全面的に任せたい」と役割を渡す(指摘ではなく依頼)
  2. 渡すカリキュラムを、こちらで先に設計する(順番・基準・良い例悪い例)
  3. カリキュラムの中に、ベテラン本人が気づいていない有効な手段を盛り込む
  4. ベテランが教える過程で気づいた時、本人の言葉で語ってもらう(否定しない)
  5. 若手の動きが変わったら、その成果をベテランの功績として返す

このうち、1と2は必須です。3〜5は順番に組み込んでいきます。

役割の渡し方で、注意したいのは「依頼」の形で渡すことです。

「指摘」「命令」ではなく、「あなたの経験が必要なので任せたい」という言葉で渡します。

カリキュラムの設計は、最初は1工程ぶんだけでも構いません。

完成形を待つよりも、まず1つの作業について「順番・基準・良い例悪い例」を作って、それでベテランに渡してみます。

ベテランへの説得をやめると、現場は動き出す

最後に、整理します。

教え方が下手なベテランを直接変えようとすると、対立構造が生まれます。

本人は自分の正しさを証明する方向に進み、現場の指導は変わりません。

変える方法は、ベテラン本人ではなく、役割と渡すカリキュラムを設計することです。

ベテランは新しい役割の中で、自分のやり方が「離」であったこと、若手には「守」が必要なことに、本人の中から気づきます。

気づきが内側から出ると、行動が変わります。

管理側がやるのは、説得ではなく設計です。

ベテランを変えようとせず、役割と材料を渡す設計に時間を使う。気づきは本人の中から出てきます。

まずひとつだけやってみてください。

「あのベテランをなんとかしないと」という会話を、「ベテランに渡す役割と、その時に一緒に渡すカリキュラムをどう設計するか」という会話に変えてみてください。

会話が変わると、現場が動き出します。

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