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OJT は「やる気」で回らない ─ 行動科学で組み直す教育設計4段階

現場でOJTを任されている担当者の口から、

「最近の若手はやる気がない…」という言葉が出る回数が増えていませんか?

実は、部下の課題を「本人の内面の問題」として説明している間にも、教える側の心理的&物理的な負荷は徐々に積み上がっていきます。

行動科学マネジメントを体系化した石田淳氏は、部下ができない理由を、本人のやる気ではなく「教え方の設計不足」として扱っています。

やる気は無理に引き出すものではなく、行動が出やすい環境を作った「結果」として現れるものです。

私たちが引き出すべきは「行動」であり、設計すべきは「環境」です。

今回は、教える側も教えられる側も消耗しない、具体的な仕組みづくりについて解説していきます。

OJT担当者が「やる気がない部下」で消耗していく現場

OJT を任された方で、こんな場面に心当たりはないでしょうか。

  • 新人に作業手順を説明し、やってもらう
  • できないからもう一度説明する
  • それでもできない
  • 気づくと、変化がないまま一日が終わっている…
  • 説明を変えて、少し強く言ってみる
  • 優しく言い直してみる
  • それでも変わらない…

最後に出てくるのが「あいつはやる気がない」という言葉です。

問題は、その言葉で片付けてしまうと、OJT担当者の側に行動の打ち手が一つも残らないことです。

「やる気がない」と判定した瞬間に、相手は変えられない対象になります。

残るのは、自分が我慢して指導を続けるか、上に相談して別の若手と交代するかのどちらかしかなく、どちらの選択肢も教えている側の疲労を増やします。

上司から「もっと丁寧に教えろ」と言われたとき、何を変えればいいかが見えないのも同じ理由です。

「丁寧」が何を指しているのかが、行動として定義されていないからです。

やる気で片付けた瞬間、教える側にも教わる側にも次の手が消えるのは、指導者個人の問題ではなく、現場の言葉の選び方の問題でもあります。

教えるとは何か

行動科学マネジメントでは、「教える」を次のように定義します。

教えるとは、相手から望ましい行動を引き出す行為である。

この定義の何が大事かというと、主語が「教える側」になっていないということです。

教える側が説明し終わった瞬間ではなく、相手の行動が変わった瞬間に教育が成立したと考えます。

「説明したかどうか」と「相手の行動が変わったかどうか」は別の話。OJT担当者がしんどくなる現場では、この二つが混ざっていることが多くあります。

説明はした、手順書も渡した、資料も見せた、それなのに、現場でその通りに動いてくれないと、「やる気の問題」に見えてきます。

ここで起きているのは、やる気の問題ではありません。教えるという行為が、説明で完結しているだけです。

行動科学の見方をすると、教育は ABC モデルという三つの要素で考えます。

要素内容
A 先行条件行動の前に置く状況、合図、指示、手順書
B 行動観察・計測できる具体的な動き
C 結果行動の直後に返される評価、フィードバック、結果

OJT担当者が「説明はした」と感じている部分は、ほとんどが A の先行条件です。

その後の B と C の設計が抜け落ちると、行動は引き出されません。

説明したかどうかではなく、相手の行動が変わったかどうかで教育を判定する。ここで現場の言葉が一段階変わります。

内面ではなく行動と環境を設計する

行動科学マネジメントの言葉を借りると、人は「意識を変えることは難しいが、行動を変えることはできる」存在です。

「もっと積極的になれ」「責任感を持て」「主体性を発揮しろ」という言葉は、意識を変えにいく言葉です。

これを言われた側は、何を変えればいいかが具体的にわからないからです。

その結果、何も変わらない…。

一方で、行動を変えにいく言葉はこうなります。

「作業前に手順書を1ページ読み上げてから始める」
「不明点があれば自分の手は止めて班長を呼ぶ」
「終業前に当日の作業ログを1行で記録する」

どれも具体的に観察できる動作で、やったかやっていないかが外から判定できます。

行動科学マネジメントでは、こういう具体化の基準を MORS の法則と呼びます。

基準意味現場での確認
M Measured計測できる回数・時間・有無で数えられるか
O Observable観察できる第三者が見て判定できるか
R Reliable信頼できる誰が見ても同じ判定になるか
S Specific具体的である何を、どれくらい、どこでがわかるか

「真心を込める」「気を抜かない」「丁寧にやる」は、この4条件をどれも満たしません。

だから現場の指導が機能しないんです。

行動科学マネジメントの中で出てくる例で、有名な置き換えがあります。

「真心を込める」という抽象的な指示を、「お辞儀の後に3秒静止する」という観察可能な行動に翻訳した話です。

3秒止まれば真心が込もるのか、というところは置いといて、観察できる行動として定義し直したことで、教える側も教わる側も同じものを見られるようになります。

これが、教育を再現可能にするということです。

「気持ちを変えろ」ではなく、「この行動をこの順番で、この回数」まで落とす。

ここまで設計するのが、教える側の仕事になります。

現場で使える行動設計の組み直し方

ここからは、OJT担当者として明日から動かせる4つの段階です。

1. 「できる人」が何をやっているかを行動の粒度で書き出す

ベテランや、その作業を問題なく回せている人を1人決めます。そのうえで、本人がやっていることを 観察できる行動の粒度 で書き出します。

「経験で判断している」と言われる部分こそ、書き出します。

たとえば、ある工程の検査で「目で見て違和感があれば止める」と話すベテランがいるとします。

その「違和感」を、観察可能な行動に置き換えるとこうなります。

  • ライト直下で部品を持ち、左右に45度ずつ傾けて2秒ずつ見る
  • 見終わった後、指で表面を一度なぞる
  • 引っかかりを感じたら、その位置を治具で再固定する

これが「ハイパフォーマーの暗黙知を物理的行動へ分解する」という発想です。

本人がいつもやっている動きを、別の人が同じ手順でなぞれる粒度まで下げる作業になります。

書き出した時点で、「教える」の中身が変わります。ベテランの感覚を伝える話から、観察可能な動作を順番に渡す話に変わります。

2. 行動の前に合図(先行条件)を置き直す

部下が動かない原因は、能力ではなく行動のきっかけとなる「合図」の不足です。

「言ったのにやらない」と悩む現場では、指示が「1回の口頭説明」で終わっているケースがほとんど。しかし、口頭だけの指示は合図として非常に弱く、人はすぐに忘れてしまいます。

確実に行動を引き出すには、現場に以下のような「物理的な合図」を組み込むことが有効です。

  • 作業直前に目に入るチェックリスト
  • 毎回同じ場所に工具を置く定位置レイアウト
  • ミスしやすい工程の「ここで一旦停止」の掲示
  • 朝礼で手渡す「本日の重点1点メモ」

機能する合図の条件は、「行動の直前」に、「目に入る場所」へ、「毎回同じ形」で置くこと

何度も口頭で注意して消耗するのではなく、現場の「環境(合図)づくり」に労力をシフトするのが最も効率的です。

3. 行動の直後に結果を返す

ここが一番抜け落ちやすい部分です。

行動が出たかどうかを見て、出ていれば「できている」、出ていなければ「ここを直す」と直後に返します。

直後というのは、その日の終わりではなく、その行動の直後です。

行動科学マネジメントでは、行動の直後に返す肯定的な反応のことを「強化」と呼びます。

強化が返ると、その行動は次回も出やすくなり、返さなければ行動は減っていきます。

返し方は大げさでなくて構いません。

「いま手順書を確認してから始めましたね、それでいいです」
「不明点があったときに止めて聞いてくれて助かりました」
「ログを書き終えて帰る順番、続けてください」

過剰に褒める必要はなく、行動が出たことを、行動の言葉で確認するだけで強化として働きます。

人格を褒めるのではなく、行動を確認する。

ここが、世間でよくある「褒めて伸ばす」の話と少し違うところです。

4. 補助を出して徐々に外す

最初から1人でできることを期待しません。

最初は、ベテランが横について手元を見せる、手順書を声に出して一緒に読む、不明点が出たらその場で止めて確認する、という補助を強めに出します。

これを行動科学マネジメントでは「プロンプト」と呼びます。

ある程度の回数を超えて、手順が安定してきたら、補助を一段ずつ外します。

声に出して読まなくてもよくなる。横について見せなくても、隣の作業をしながら見えていれば足りる。最後は、不明点があれば自分から止めて声をかけてくる、という形まで進みます。

補助を急に全部抜くと、安定していた行動も崩れます。

補助を一切出さずに最初から「できるはず」で始めるのも、同じ理由で崩れます。

  1. 合図を置く
  2. 行動の直後に結果を返す
  3. 補助を徐々に外す

この三つが揃うと、教える側も教わる側も、自分の打ち手が見えるようになります。

明日から試す行動設計のチェックリスト

明日のOJTで使うチェックリストです。

班に持ち込める5つの確認

  1. 「やる気がない」と感じた行動を、観察できる形で1つ書き出してみる
  2. その行動の前に、いつもと同じ合図(先行条件)が置かれているかを確認する
  3. その行動の直後に、何かしらの結果が返っているかを確認する
  4. ベテランが同じ場面で出している動作を、3つ以上の手順に分解できるかを試す
  5. 補助を出してから外すまでの段階が、現場のOJT計画に書かれているかを見直す

5つのうち1つでも答えに詰まる項目があれば、それは個人の問題ではなく、設計の余白です。

OJT担当者が一人で全部を埋めにいくのではなく、班長・係長・上長で分担します。

書き出すのはOJT担当者でも、合図を置き直すのは現場長の権限が要ることがあります。結果を返す訓練は、班全体で揃える方が効きます。

個人の能力で埋めにいくと教える人が先に潰れますが、設計の余白として扱えば現場全体で持てます。

OJT担当者が抱え込まないために

行動科学マネジメントの中核は、できない理由を内面に置かないことです。

「やる気がない」「主体性がない」「責任感がない」という言葉で説明をやめないということです。

OJT担当者がしんどくなる現場では、この内面の言葉が増えています。

増えた分だけ、教える側の打ち手が減っていきます。代わりに見るのは、行動と環境の設計です。

  • 「教える」は、説明で終わらず、相手の行動が変わるまでを含む
  • 行動は、観察できる粒度で定義する(MORSの法則)
  • 行動の前には合図を置き、直後には結果を返す
  • ベテランの感覚は、観察可能な行動に分解できる
  • 補助は強めに出して、徐々に外す

ここまで落としたとき、教える側に打ち手が戻ります。

「やる気がない」で説明する代わりに、「合図が弱い」「結果が返っていない」「分解が粗い」と話せるようになるということです。

打ち手が見えると、教える側が抱え込む必要がなくなります。班全体で、現場全体で持てる話に変わります。

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